よく『ウチには大した財産はないから大丈夫』と話す方が少なくありません。
一般的な認識として『遺産相続の問題というのはお金持ちの家だけ』という考え方がまだまだ根強いようです。
しかし実際に相続トラブルに発展してしまった事例の数というのは、この一般的な認識とはまさに正反対なのです。
実は家庭裁判所に持ち込まれる相続トラブルの約3割が、1,000万円以下の財産をめぐるものです。
これが何を意味するかというと、ごく普通の家であっても相続問題に直面する可能性があるということです。
1,000万円というと多額なようにも思いますが、相続財産の中には不動産も当然含まれます。
ごく一般的な一戸建てと多少の預貯金があるといった普通の家でも、1.000万円というのは決して高額ではありません。
遺産が少ないほどモメる可能性が高い?
逆に5,000万円以上の遺産で相続トラブルが生じている割合というのは約2割程度です。
都市部に持ち家があるような方であれば特に高収入ではなくても、不動産と預貯金といった財産だけでも5,000万円程度の資産があることは特に珍しくありません。
つまりトラブルの大半は遺産5,000万円以下の決して資産家ではない、ごく普通の一般的な相続で起こっているのです。
財産をそれなりにお持ちの方というのは、相続について生前からきちんと対策をしていることが多いということもあります。
こうした現実を踏まえると、遺産が少ないほどトラブルの可能性が高くなるともいえます。
本当に相続対策を講じなければならないのは、むしろ『ウチには大した財産はないから』という方といえるでしょう。
相続トラブルを避けるカギはやはり遺言書
そこで考えなければならないのは、いかに相続をスムーズにできるかどうかです。
相続トラブルを避けるためのカギは、やはり遺言書です。
遺言書を作成する方は年々増えてきてはいますが、私の実感としてはまだまだ遺言書を残して亡くなる方というのは少数派です。
自筆証書遺言に関しては、どれくらいの方が作成しているのか正確な数字はわかりません。
ただ終活といったものが一般に認知されてきている中でも、遺言書を残して亡くなる方は1割ほどと言われています。
日本では遺言書を残すという文化がまだ浸透していないということもあり、中には遺書と遺言書を混同してしまっている方も少なくはありません。
相続においては遺言書の有無というのがとても重要なことであることをぜひ認識しておきましょう。
トラブルを避ける遺言書の残し方は?
遺言書というのは法的な効力が生じる重要な書面です。遺言書を作成する際の主なポイントは次のような点です。
本人が元気なうちに作成しておくこと
遺言書は、何歳までに作成しなければならないという法的な決まりはありません。
しかしできれば本人が元気なうちに作成しておくことをお勧めします。
特に全文を自筆で書かなければならない自筆証書遺言は、想像以上に大変な作業となります。
かなり高齢になってから遺言書を作成した場合、それはそれでトラブルの元にもなりかねませんので注意しましょう。
また遺言者本人が認知症などで遺言能力がなくなってしまうと、基本的に遺言書を作成することはできません。


相続させる財産はしっかりと具体的に
相続財産の中に不動産がある場合には必ず法務局で登記簿謄本を取り寄せ、地番や家屋番号などをその内容通りに正しく記載しましょう。
預貯金などについては具体的な金額を記載することもできますが、遺言書を作成した後に財産内容が変動する可能性もあります。
そのため預貯金の2分の1は〇〇に、3分の1は〇〇に、といったように割合で指定しておくこともできます。
祭祀財産の継承についても記載しておく
祭祀財産(さいしざいさん)というのは、いわゆるお墓や仏壇といったものです。
核家族化の進んでいる現代では先祖代々の土地や家屋、祭祀財産といった相続財産が足かせになっているケースも少なくありません。
祭祀財産を継承しても相続分が増えるわけではありませんので、近年は祭祀財産については押し付け合いなどのトラブルも多くなってきています。
遺言書では祭祀財産を誰に継承させるかも指定することができますが、できれば事前に話し合ったうえで決めておくのが無難でしょう。
付言事項を書き添えておくことも有効
付言事項というのは、いわば相続人に向けて書き添えておくメッセージです。
例えば遺言書で相続分に差をつけたような場合、その理由などを書き記しておくことで、相続人の理解を得られる効果が期待できます。
遺言書の作成は専門家に内容をチェックしてもらうと安心
遺言書は法的な効力が生じる重要な書面であるため、何らかの不備があると遺言書そのものが無効となってしまう可能性もあります。
そのようなことを避けるためにも、できれば相続や遺言書に詳しい行政書士などの専門家に内容をチェックしてもらうと安心でしょう。
財産の多少にかかわらず遺言書を作成しておきましょう
冒頭に述べた通り、相続トラブルの大半はごく普通の財産内容で生じています。
本当に相続対策を講じておかなければならないのは『ウチには大した財産はないから』と考えている人たちなのです。
遺言書を作成することは、自分の財産内容を改めて見直すいいきっかけにもなります。
財産の多少にかかわらず、特にいわゆる『おひとりさま』の方は、ぜひ遺言書を作成しておきましょう。
当事務所では不動産や相続税の専門家とも連携をしながら、相続や遺言書についてのご相談を承っております。疑問点やお困りのことがあれば、お気軽にご相談ください。