お金の問題となる相続においては、相続人間での争いということに発展することも決して珍しいことではありません。
相続人間の相続財産の差が数十万円程度であっても、泥沼の相続争いに発展してしまうこともあります。
実際、相続トラブルになっている事例の大半は、相続財産が5000万円以下といった、決して資産家ではないごく普通の相続で起きています。
つまり、財産の多少ではなく、どのような相続でもトラブルになる可能性があるということです。
そして近年、特に問題となっているのが、相続と介護に絡む相続トラブルです。
同居して介護していても相続分が増えるわけではない
核家族化と高齢化社会という現代では、親と同居して介護も行っているというケースも少なくありません。
介護というのは肉体的な負担はもちろんのこと、精神的な負担も大きいものです。
そうした状況の中で介護していた親が亡くなり、相続が生じた際に、相続トラブルというのが生じやすくなります。
介護をしていた相続人としては、介護をしていた負担を考慮してもらいたいにもかかわらず、他の相続人が均等割りでの遺産分割(相続財産を分けること)を要求して相続トラブルに発展するケースが増えてきているのです。
法律上、子は親の扶養義務があります。そのため、たとえ相続人の中に親の介護をしていた人がいたとしても、通常は相続で優遇されることはありません。
相続の制度には『寄与分』という考え方もありますが、親と同居して面倒をみることは扶養義務の範囲内とみなされることが多く、寄与分が認められるハードルはとても高いのが現実です。
そのため、たとえ同居して親の介護をしていたとしても、その分相続分が多くなるということは、ほとんどないのです。
寄与分を主張できるのは法定相続人のみ
また、寄与分を主張できるのは法定相続人に限られます。
ですから、例えば亡くなった方の介護は主に相続人の配偶者が行っていた、といった場合、相続人の配偶者は法定相続人ではありませんので、寄与分を直接に主張する権利がありません。
どれだけ献身的に面倒をみていたとしても、法定相続人ではないので遺産分割協議(相続人がどのように遺産を分けるかの話し合い)に参加することもできないのです。
民法改正により相続人以外の人も特別寄与料の請求が可能に
ただし上記のとおり、介護などに寄与した人が寄与分を主張できるのは相続人のみでした。
しかし2019年7月1日施行の改正民法において『特別寄与者』『特別寄与料』という概念が新たに新設されました。
これは相続人以外でも一定の範囲内の親族は、特別寄与者として特別寄与料を相続人に対して請求することができるという権利です。
例えば被相続人と同居していた長男の嫁が特別寄与料を請求できるなど、法定相続人以外の人も遺産を取得できる可能性が広がったということになります。
民法第1050条(特別の寄与)
被相続人に対して無償で療養看護その他の労務の提供をしたことにより被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした被相続人の親族(相続人、相続の放棄をした者及び第八百九十一条の規定に該当し又は廃除によってその相続権を失った者を除く。以下この条において「特別寄与者」という。)は、相続の開始後、相続人に対し、特別寄与者の寄与に応じた額の金銭(以下この条において「特別寄与料」という。)の支払を請求することができる。
2 前項の規定による特別寄与料の支払について、当事者間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、特別寄与者は、家庭裁判所に対して協議に代わる処分を請求することができる。ただし、特別寄与者が相続の開始及び相続人を知った時から六箇月を経過したとき、又は相続開始の時から一年を経過したときは、この限りでない。
3 前項本文の場合には、家庭裁判所は、寄与の時期、方法及び程度、相続財産の額その他一切の事情を考慮して、特別寄与料の額を定める。
4 特別寄与料の額は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から遺贈の価額を控除した残額を超えることができない。
5 相続人が数人ある場合には、各相続人は、特別寄与料の額に第九百条から第九百二条までの規定により算定した当該相続人の相続分を乗じた額を負担する。
ただし特別寄与料が認められるには高いハードルがある
これまでどれだけ介護などに尽力したとしても、相続においてまったく考慮されなかった親族にとっては、一見とても画期的な条文かもしれません。
しかし特別寄与者として特別寄与料を請求するためには、実際には寄与分と同様に実質的には高いハードルが設けられています。
この特別寄与料は、親族間の扶養義務以上の貢献があったような場合に認められるものです。単に同居して身の回りの世話をしていたといった程度では認められません。
これは寄与分についても同様なのですが、やはり介護とお金が絡む相続というのはトラブルになりやすいものであることに変わりはありません。
介護と相続の問題を回避するためにはやはり遺言書
特別寄与者や特別寄与料といったものが明文化されたとはいえ、介護をめぐる相続トラブルを回避する最も有効な手段は、やはり遺言書を残しておくことです。
遺言書があることで、介護をしていた相続人の相続分を増やすことができるだけでなく、面倒をみてくれた相続人の配偶者に対しても遺贈という形で財産を残すことも可能となります。
遺言書がある相続では、遺言書の内容が最優先されます。
ですから遺言書があることによって、相続人同士でトラブルとなる可能性をぐっと抑えることが期待できるのです。
もし、自分の面倒をよくみてくれた相続人や子の配偶者に、より多くの財産を残したいという意思があるのであれば、相続トラブルを回避するためにも遺言書を残しておきましょう。
トラブルを避けるには相続人の遺留分に要注意
ただし、相続分に極端な差があると、他の相続人の遺留分を侵害してしまう場合がありますので、その点には注意が必要です。
相続人の遺留分を考慮していない遺言書でも、法的に遺言書が無効となるわけではありません。
しかし、遺留分を侵害されている相続人には、遺留分侵害請求権を行使する権利があります。




遺留分を考慮していないと、せっかく遺言書を作成したとしても、後に自分の面倒をみてくれた相続人が苦労することにもなりかねません。
自分の死後に相続人間でトラブルを生じさせたくない場合には、生前からしっかりと相続のことについての意思をもち、その準備をしておくことが大切です。
相続人以外の人に遺産を残したいのであれば遺言書で意思表示を
遺言書は、相続について自らの意思を法的効力のある形で残せる最も有効な方法です。
遺言書の作成について不明な点や心配なことがあれば、相続に詳しい専門家に相談することも検討してみてください。
なお、当事務所でも遺言書作成についての相談を承っております。もし疑問点やお困りのことがあれば、お気軽にご相談ください。