例えば相続人同士の関係が微妙な場合、面倒なことはできればやりたくないなどといった理由から、遺産分割協議書を作成しないということがあります。
特に相続人間でモメた末にやっと成立した遺産分割ほど、遺産分割協議書の作成を敬遠する傾向があります。
やっとのことで遺産分割協議を成立させたのに、そこであえて書面にすることで紛争が再発しかねない、といった理由からです。
しかし遺産分割協議書は財産内容によっては相続手続きに必要となりますし、後の協議の蒸し返しといったトラブルも少なくありません。
やはりどのような理由があるにせよ、協議が成立した際にはきちんと作成しておきましょう。
遺産分割協議書を作成しないことで起こるトラブル
遺産分割は相続人の全員が合意することで成立します。
しかし遺産分割協議書の作成は特に法定されているわけではありません。
では遺産分割協議書を作成しないことで起こり得るトラブルとはどのようなことでしょうか。
遺産の中に不動産がある場合には作成が必須
まず遺産の中に不動産がある場合です。
不動産の移転登記には遺産分割協議書を添付する必要がありますので、遺産分割協議書を作成しないと手続きができません。
不動産の移転登記に法的な義務はありませんが、不動産の登記を放置すると将来的にどんどん権利者が増えてしまいます。
そして将来、いざ不動産を処分したり名義を一本化したいような際には、相続人の全員から合意をとりつけなければなりません。
ただし権利者が多ければ多いほど合意が難しくなってきます。
こうした事態を避けるためにも、遺産分割協議書は相続が生じた際には必ず作成し、誰が相続したのかを明らかにしたうえで、移転登記も速やかに行うことが重要となります。
被相続人の預貯金に関する手続きにも必要な場合がある
また預貯金の名義変更や払い戻しといった手続きを行うにあたっても、遺産分割協議書または銀行所定の手続き依頼書への相続人全員の署名捺印、印鑑証明の添付が必要です。
相続が開始されたことを銀行が知ると、被相続人(亡くなった人)名義の預貯金口座は凍結されてしまいます。
葬儀代などの支払いのために預貯金を引き下ろしたい場合でも、相続人全員の合意を取り付けない限りは引き下ろすことができません。
遺産分割協議書の内容はできるだけ具体的に
遺産分割協議書の内容を曖昧な表現にしてしまうと細かい点で対立が再燃し、成立しかけた合意が振り出しに戻ってしまうこともあります。
ですから遺産分割協議書の内容はできる限り具体的に、客観的にも内容がきちんと判断できる記載にしましょう。
また遺産分割協議書を作成する際には、あとから新しい財産が出てくることも珍しくありません。
そのような時に備えるために、あらかじめこうした財産が出てきたらどのように分割するのか、あるいは誰が相続するのかも明確にしておきましょう。
この文言がないと、再度その財産について分割協議をやり直さなければならなくなります。
不動産については間違いのない記載で
土地や建物といった不動産については、登記事項証明書に記載されている通りに記載しましょう。
この点が少しでも間違っていたりあいまいな表記になっていると、法務局で名義変更の手続きが受け付けられない可能性もあります。
遺産分割協議書を慌てて作成するあまりに、間違った記載で結局、また再度相続人間で協議しなければならなくなるのはとても無駄な労力です。
法定相続人が一人だけの場合は?
なお、法定相続人が一人だけの場合には、遺産分割協議書を作成する必要はありません。
そもそも協議する相手がいないからです。
この場合、不動産登記や預貯金の手続きについても、相続人が単独で相続手続きを進めることができます。
遺産分割協議書のことで困ったら
前述のとおり遺産分割協議書はとても大事な書面です。特に不動産が含まれていて移転登記が必要な場合などには、間違いのないものを作成しなければなりません。
ですから遺産分割協議書も含めて、相続に関しては行政書士などの専門家の力を借りるというのも一つの選択肢です。
実際、遺産分割協議書の記載や協議の内容が不十分なために、相続手続きがなかなか進まないという事例は結構あります。
当事務所でも、遺産分割協議書などについての相談を承っております。疑問点やお困りの際はお気軽にご相談ください。