被相続人(亡くなった方)名義の預貯金口座は、一般的に相続人が銀行に知らせることで凍結されます。
ですから、基本的に相続人が銀行等に知らせない限り、口座は凍結されません。
しかし、金融機関の営業担当などがお通夜や葬儀などを確認した場合や、顧客などから死亡したことを知らされるなど、何らかの形で金融機関が死亡したことを知ることになると、相続人が知らせる前に口座が凍結されることがあります。
また、地方などでは新聞のお悔やみ欄に亡くなった方が掲載されますので、それを確認した金融機関が口座を凍結するケースもあります。
そうしたときに困るのは、お通夜や葬儀費用など、すぐに現金が必要となる場合です。
生前にできる葬儀費用などの対策は?
被相続人が亡くなり、万一すぐに口座が凍結されてしまった場合に備えるためには、主に以下のような対策が考えられます。
葬儀業者のサービスや共済・互助会などへの加入
葬儀業者の中には、あらかじめ葬儀費用を積み立てるサービスを行っているところもあります。
また、共済や互助会といったものに加入しておくことで、相続人の負担が少なくなります。
ただし、払い戻される費用はあくまでも一定額なので、葬儀の大きさなどによっては相続人の負担も大きくなることがあるので注意しましょう。
必ずしも共済や互助会を使った葬儀が安価とは限りませんので、複数の業者から見積もりをもらうといったことも大切です。
生命保険への加入
生前に生命保険に加入しておき、相続人を死亡保険金の受取人に指定しておくことで、葬儀費用などをまかなうことができます。
一般的な生命保険であれば比較的簡易な手続きで、まとまった保険金を受け取ることができるため、生前の葬儀費用対策としてはお勧めの方法です。
また、生命保険金については、相続税の課税対象から一定額を控除することができるため、相続税対策として利用されることもあります。
生前に葬儀費用などを相続人に渡しておく
これは葬儀費用などを確保しておける、一番簡単な方法です。
ただし、贈与税の非課税枠を超えてしまう金額であったり、使途があいまいな預け方をしてしまうと相続人への贈与とみなされ、後に税務署から指摘を受けてしまうことがあります。
また、相続人がきちんと管理しておくことが前提ですから、相続人が預かったお金を葬儀の前に使ってしまった、というケースも考えられます。
この方法をとる場合には必ず書面を作成し、相続に詳しい行政書士など書類作成の専門家に相談することをお勧めします。
信託銀行のサービスを利用する
信託銀行に一定額を預けておくことで、亡くなった後に契約上で指定された人が引き出すことができるサービスがあります。
信託財産は相続財産と切り離すことができ、一般的な預貯金の相続手続きよりも比較的簡単な手続きで引き出すことが可能となります。
ただし、この場合には相応の手数料等が発生しますので、サービス内容などをよく検討する必要があるでしょう。
これから最もお勧めな方法は家族信託の活用
家族信託というのは、葬儀費用などを単に『相続人に預ける』のではなく、葬儀に必要となる費用を『託す』契約をあらかじめ結んでおくものです。
財産を託す人を『委託者』、財産を託される人を『受託者』といい、葬儀などに必要となる費用として管理してもらいます。
この場合、信託という形で財産を託すことになり、財産をあげるわけではありませんので贈与税はかかりません。
受託者に託しているお金は受託者の管理口座に入ります。被相続人となる委託者が亡くなっても口座は凍結されることはなく、葬儀費用などの目的に沿った形でお金が使われることになります。
それでも財産を託すことに心配があれば、受託者がきちんとお金を管理しているかどうかをチェックする信託監督人をつけることも可能です。
家族信託については、葬儀費用の確保といった目的だけではなく、将来自分が認知症になって財産管理ができなくなってしまったような場合に備えるなど、様々な形で財産管理対策として有効に使うことができます。
柔軟な対応がしにくい成年後見制度に代わり、この家族信託を活用する方が年々増加してきています。
生前によく相続人と話し合っておくことが大切
相続というのは、事前にしっかりと準備を行っておくことで、相続人の負担は少なくなります。
何も対策をしていないと金銭面だけでなく、様々なことで相続人が大変な思いをすることにもなりかねません。
そのようなことにならないよう、生前の元気なうちから十分に対策を考慮したうえで、相続人となる家族とよく話し合っておくことも必要でしょう。
※補足情報~2019年7月1日施行の改正相続法(仮払い制度)について
2019年7月1日施行の改正相続法により、遺産分割(相続人間で被相続人の遺産を分けること)前に、一定額まで被相続人名義の預貯金の払い戻しが相続人単独でも可能となりました。
これにより被相続人の遺産(預貯金)から、共同相続人が単独で葬儀費用などの仮払いを受けることなどが可能となっています。
制度の概要等については、下記法務省の資料をご参照ください。