事実婚というのは、いわゆる内縁関係(婚姻届を提出していなくても夫婦同様の生活を営んでいること)です。
日本では事実婚のカップルが増えているとはいえ、まだまだ少数派といえます。
欧米各国の中には事実婚が一般的となっている国もあり、特にフランスでは事実婚を選択するカップルが、かなりの割合を占めています。
これは一定の手続き(PACS)をとることで、税制面や社会保障面などにおいても、婚姻関係の夫婦と同様の扱いとされる制度があるためです。
またカトリック教徒などは宗教上、そもそも離婚というものが認められていないこともあり、事実婚という形をとるケースも少なくありません。
一方、日本ではフランスのような制度はありません。
そのため、法律上の婚姻関係となるかどうかで生活上においても相続という場面においても、取り巻く環境は大きく異なってきます。
日本における事実婚の主なメリット・デメリット
まず、事実婚のメリットとしては、主に次のようなことが考えられます。
事実婚の主なメリット
- 夫婦別姓で生活することができる
- 各種の名義変更などの手間がない
- 別れても離婚という事実が残らない(戸籍に記載されない)
事実婚の主なデメリット
逆に、事実婚を選択した場合の主なデメリットは、次のようなことが考えられます。
- 社会的な信用面で不利になることがある
- 配偶者控除などを受けることができない
- 住宅ローンを組む場合に審査が通りにくくなることがある
- 生命保険の受取人となれない場合がある
- 子どもが非嫡出子ということになり、親と姓が異なってしまう
- 配偶者の法定相続人となることができない
- 相続税が2割加算で計算される(事実婚の配偶者が相続人となる場合)
事実婚を選択した場合の相続で注意すべきこと
上記のように事実婚を選択した場合には生活面や税金面などで不利になること、不都合なことが多々生じてきてしまいます。
そしてここでは特に相続という面での注意点や、準備しておいた方がよいことなどを解説していきたいと思います。
事実婚の配偶者は法定相続人となることができない
日本の民法で規定されている『配偶者』というのは、あくまでも婚姻関係にある配偶者ということが前提となっています。
そのためもし事実婚の夫婦のどちらかが亡くなってしまった場合、残された方は法定相続人となることができません。
どれだけ長年にわたって事実婚を続けてきたとしても、パートナーの遺産を相続する権利は原則として生じないということになります。
さらに相続財産の中に不動産がある場合、法定相続人が不動産を相続する際には不動産取得税は課税されませんが、遺贈で不動産を取得した場合については、不動産取得税が課税されます。
相続税や生前贈与などで、配偶者のみが優遇されている各種の控除(相続税の配偶者控除、贈与税の配偶者控除など)も適用できないものがほとんどです。
そして事実婚の配偶者については、相続税の2割加算(1.2倍の相続税が課せられる)の対象となります。
ただし事実婚であっても二人の間に父親から認知されている子がいれば、その子については法定相続人となります。
事実婚の配偶者に財産を残したい場合は
前述の通り事実婚の配偶者は法定相続人となることができません。
そこで重要となるのが『遺言書』です。
遺言書では『遺贈』という形で法定相続人以外の人に財産を残す意思を示すことができます。
事実婚の配偶者については遺言書を作成しておくことが必須ともいえますので、事実婚を選択した場合には、必ず遺言書を作成しておきましょう。
一定の法定相続人には遺留分があることも留意しておく
相続では、被相続人(亡くなった方)の兄弟姉妹以外の法定相続人に、遺留分を取得できる権利が定められています。
そのため、もし被相続人が亡くなった時点で、被相続人の父母が存命である場合には、仮に全財産を事実婚の配偶者に遺贈する内容の遺言書があったとしても、遺留分減殺請求を受ける可能性があります。
そうした点も留意しておく必要はあります。
生前贈与で事実婚のパートナーに財産を残すことも
遺言書による遺贈のほかにパートナーに対して財産を残す方法としては、生前贈与を利用することも考えられます。
生前贈与については、年間110万円までの贈与は非課税となるため、早めに取り組んでおくことで相続対策、また相続税対策にもなります。
事実婚に関する契約書を作成して『法律婚に近い』事実婚も
事実婚というのは法律上の婚姻関係とは異なり、生活面で様々な不都合が生じることがあります。
そこでより『法律婚に近い形』とするために、『事実婚に関する契約書』をあらかじめ作成しておくという方法も考えられるでしょう。
取り決める内容の一例としては、もし夫婦の一方が不貞行為などに及んでしまった場合の損害賠償請求に関することや、医療行為に対する同意権、保険の受取人に関することなどです。
こうした契約書をあらかじめ作成しておくことで、より法律婚に近い関係性を築くことができるようになり、デメリットもある程度は解消できるかもしれません。
事実婚を選択した場合の注意点まとめ
事実婚の配偶者は、現行の民法上では『配偶者』として定義されていません。
現状は生活面、税制面で各種の優遇措置が受けられないことなど、様々な点でデメリットが多いことも考慮しておく必要があります。
そして事実婚の配偶者は法定相続人となることができません。
そのため事実婚のパートナーに遺産を残したい場合には、必ず遺言書を作成しておきましょう。
ただし一定の法定相続人(父母)には、遺留分を請求する権利(遺留分減殺請求権)があります。その点も留意しておく必要があります。
また非課税枠内で早めに生前贈与を行い、パートナーに財産を渡しておくことも相続対策、相続税対策として有効な方法として考えられます。
さらにより法律婚に近い形での事実婚とする方法として、あらかじめ事実婚に関する契約書を作成しておくことも検討しておくとよいでしょう。
当事務所では相続や遺言書についての相談を承っております。疑問点や不安なことなどがあれば、お気軽にご相談ください。