被相続人(亡くなった方)の遺産は、原則として配偶者や子、父母、兄弟姉妹といった法定相続人となる人が引き継ぐことになります。
しかし、例えば被相続人が配偶者と長年別居生活をしていて、いわゆる愛人と生活を営んでいるようなケースでは、愛人に全財産を残したいという希望がある方もいるでしょう。
たとえ配偶者との別居期間が長期にわたっていたとしても、愛人は法定相続人となることはできません。
では、もし愛人に全財産を残したい場合、どのような方法があるのでしょうか。また、そもそも愛人に全財産を残すことは可能なのでしょうか。
遺贈であれば愛人に財産を残すことは可能
愛人に対して遺産を残すためには、まず前提として遺言書が必要となります。
遺言書がない場合には、法定相続人でなければ遺産を相続する権利が生じないためです。
もし愛人に全財産を残したいのであれば、愛人に遺贈するという内容の遺言書を作成しておけば、全財産を愛人に残すことは『一応』可能です。
遺言書によって相続人以外の人に財産を残すことを『遺贈』といいます。
一定の法定相続人には遺留分がある
ただし、配偶者や子、父母に関しては、相続財産の一定割合を受け取る権利があります。
この割合を『遺留分』といいます。
遺留分を無視した遺言書であっても、遺言書そのものが無効となることはありません。
しかし、愛人に全財産を遺贈するといった遺言書があったとしても、遺留分を受け取ることができる権利者は、遺留分に相当する財産を取り戻す権利があるのです。
そして、どれだけ別居期間が長期にわたっていたとしても、法律上の婚姻関係が続いている限り、配偶者は相続人の権利を失うことはありません。
遺留分をもつ権利者は、愛人に対して遺留分を主張することができます。
つまり、愛人に財産を残すことは可能ではあっても、全財産を残すことはできない可能性が高いということになります。
ただ、逆にいえば少なくとも相続財産の半分は愛人に残すことができる、ともいえます。
遺言書以外の方法で愛人に財産を残すには
遺言書以外の方法で愛人に財産を残すには、生前贈与で行うという方法もあります。
生前贈与は第三者に対しても行うことができ、さらに年間110万円までの贈与であれば贈与税はかかりません。
ですから、愛人にできるだけ多くの財産を残しておきたいということであれば、こうした方法を使って亡くなる前に相続財産を目減りさせておくことも可能です。
ただし、被相続人が亡くなる前の1年間に贈与された財産については、遺留分の算定にあたって相続財産額に算入されます。
また、相続税を算定する財産には、被相続人が亡くなる3年前までの贈与財産を含めて計算することになりますので、その点には注意が必要です。
遺留分が問題となる相続はトラブルの元
このように、愛人に財産を残すには遺言書、あるいは生前贈与といった方法をとることで可能ではあります。
しかし、遺留分を無視した遺言書は、相続人間においてもトラブルが生じやすいものです。まして愛人ともなると、まずトラブルが生じる可能性は相当に高くなるでしょう。
愛人に財産を残したい、という気持ちはわからなくもありませんが、結果として相続トラブルに巻き込むことにもなりかねない、ということは十分に留意しておきましょう。