被相続人(亡くなった方)の遺産を、何らかの事情で相続人が相続しない(財産を受け取らない)といったケースがあります。
被相続人の財産に負債(借金)が多いような場合には、家庭裁判所で『相続放棄』の手続きをとることで、相続人は被相続人の遺産を相続しないという選択ができます。
また、相続人間での遺産分割協議で、相続人が被相続人の財産を相続しないという意思表示をしたり、『相続分なきことの証明書』といった書面により、自分の相続分を放棄する『相続分放棄』の意思表示をする場合もあります。
どちらも被相続人の遺産を相続しない、という点では共通していますが、法的な意味合いはまったく異なります。
家庭裁判所の手続きによる相続放棄と相続人間での相続分放棄の違い
まず、相続放棄というのは、家庭裁判所での手続きを経て相続人としての立場を放棄する、つまり最初から相続人ではなかったという扱いにしてもらうことです。
相続放棄は多くの場合、被相続人にマイナスの遺産(借金など)が多い場合に、相続人が家庭裁判所に申立てを行うものです。
相続放棄の法的効力としては、最初から相続人ではなかった、という扱いになります。
ですから、プラスの財産もマイナスの財産も含めて、被相続人の遺産すべてを受け取る権利がなくなります。
相続分放棄の場合
相続分放棄というのは、相続人間で遺産を相続しないという意思表示をすることで、遺産を受け取らないというものです。
これは遺産分割協議によって相続人間で決めることもありますし、相続分なきことの証明書といった書面によって行われる場合もあります。
この場合も、被相続人の遺産は受け取らないことになりますが、相続人としての立場はそのまま残ります。
相続放棄と相続分放棄の決定的な違い
相続放棄も相続分放棄も、被相続人の遺産を受け取らないという意思表示には違いありませんが、注意しなければならない点があります。
例えば、被相続人の遺産のほとんどが負債(借金)だったような場合です。
家庭裁判所の手続きによる相続放棄を行えば、最初から相続人ではなかったという扱いになりますので、被相続人の借金を相続することはありません。
しかし、相続分放棄の場合は、あくまでも相続人間での合意に過ぎません。そのため、第三者である債権者(お金を貸している人)には、その合意の効力は及びません。
つまり、相続分放棄の合意を相続人間で行い、たとえ遺産を受け取らなかったとしても相続人としての立場は残ります。
これが何を意味するかというと、相続分放棄をしたとしても、債権者に対しては自分の法定相続分相当の金額を支払う義務が残ってしまう、ということになるのです。
被相続人の財産調査の重要性
相続放棄と相続分放棄の法的な意味合いは、上記のようにまったく異なります。そこで重要となるのは、やはり被相続人の財産調査をきちんと行うことです。
相続放棄に関しては、原則として被相続人が亡くなってから3か月以内に家庭裁判所に対して申立てを行わなければなりません。
相続分放棄については特に法定の期限はありませんが、こちらも被相続人の財産状況をきちんと把握しておかなければなりません。
どちらにしても自らの不利益とならないよう、被相続人の財産調査をきちんと行ったうえで判断することが重要です。