一般的に、遺言書があれば相続トラブルを防ぐことができる、とよく言われます。
確かに相続対策という観点においては、遺言書があることで、相続トラブルが生じる可能性をぐっと低くできるのは間違いありません。
実務上でも『遺言書があればよかったのに』と感じることは多々あります。
しかし相続手続きの負担という面から考えると、単に遺産分割(相続人間でどのように遺産を分けるか)について書かれた遺言書を用意しておくだけでは不十分です。
相続手続きをできるだけスムーズに進めるためには、公正証書遺言で作成したうえで、遺言書にある一文を加える必要があります。
遺言書には遺言執行者の指定が必須
その一文というのは、『遺言執行者』の指定です。
遺言執行者というのは、簡単に言えば遺言書の内容を実現するための人です。
これはよく誤解されがちなのですが、遺言書を残しただけでは遺言書の内容が確実に履行されるとは限りません。
誰かがきちんと遺言書の内容に沿った遺産分割を行う必要があります。
この役目を担うのが『遺言執行者』です。
遺言執行者が単独で相続手続きを進めることができる
通常、相続に伴う預貯金などの名義変更や解約を行う場合、相続人全員の実印の押印や印鑑証明書といったものが必要となります。
結局のところ、遺言書がない場合と同じような手間がかかることになってしまうのです。
しかし遺言執行者が指定されていると、遺言執行者が単独で名義変更や解約といった手続きを行うことができるため、相続手続きが非常にスムーズに運びます。
被相続人の意思をできる限り確実に実現できる
遺言書の内容というのは、相続において法定相続分よりも優先されるものです。
ただし、もし相続人全員が遺言書と異なる遺産分割を行いたいと考えた場合、相続人全員が同意すれば、改めて遺産分割協議を行うことも可能となります。
つまり、せっかく遺言書を残していても、結果として被相続人(亡くなった方)の意思とは異なるものとなってしまう可能性があるのです。
ですから遺言書の内容をできる限りしっかり実現してもらいたい、ということであれば、遺言執行者を指定おくことで、本人の希望に沿った形で遺産を分けることができます。
遺言執行者は誰にすればいい?
遺言執行者となるのに特別な資格は必要ありませんが、未成年者と破産者については遺言執行者となることはできません。
遺言執行者は相続人の中からも指定することができますが、できれば利害関係のない第三者を指定することをお勧めします。
遺言執行者には大きな権限がある半面、それだけの重責、義務も負うことになります。
そして遺言執行者の指定というのは遺言者の一方的な意思表示ですから、たとえ遺言書で指定されていたとしても遺言執行者への就任を辞退することができます。
また遺言執行者の職務は想像以上に大変な仕事であり(私たちのようなプロでも苦労することが多々あります)、一度就任すると辞任や解任を行う際には家庭裁判所の許可が必要です。
そのような点を考慮すると、やはり遺言執行者を辞退するような心配のない、相続手続きに精通した信頼できる行政書士などの専門家を指定しておくのが無難と言えます。
当事務所でも、遺言書の作成や遺言執行者についての相談を承っております。疑問点やお困りのことがあれば、お気軽にご相談ください。